大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和51年(ワ)698号 判決 1977年5月31日

原告 東京工販株式会社

右代表者代表取締役 小山繁郎

右訴訟代理人弁護士 渡辺正造

被告 伊藤高

右訴訟代理人弁護士 大西幸男

主文

被告は原告に対し、別紙物件目録記載の物件を引渡せ。

訴訟費用は、被告の負担とする。

この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告)

主文同旨

(被告)

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張事実

(請求の原因)

一  原告は、昭和四八年一二月一八日その所有にかかる別紙物件目録記載の物件(以下、本件物件という。)を、訴外有限会社長谷川機器製作所(以下、訴外会社という。)に対し、左記約定で売渡した。

1 代金    六、三七七、〇〇〇円

2 支払方法

(一) 昭和四八年一二月一八日  金一、〇〇〇、〇〇〇円

(二) 昭和四九年一月二〇日  金一七九、二〇〇円

(三) 昭和四九年二月以降同年一二月まで毎月一〇日限り  金一七九、二〇〇円

(四) 昭和五〇年一月一五日  金一七九、二〇〇円

(五) 昭和五〇年二月以降昭和五一年五月まで毎月一〇日限り  金一七九、二〇〇円

(六) 昭和五一年六月一〇日  金一八〇、二〇〇円

3 特約 所有権は、代金完済時に移転する。

二  然るに訴外会社は、昭和五〇年八月一〇日以降の割賦代金を支払わない。

三  被告は、本件物件を占有している。

四  よって原告は被告に対し、本件物件の引渡を求める。

(認否)

原告が本件物件を占有していることは認めるが、その余の事実は不知

(抗弁)

一  被告は、昭和四九年一〇月三日本件物件を占有していた訴外会社から、本件物件を含む工作機械を代金二〇、〇〇〇、〇〇〇円で買受けた。

二  よって仮に本件物件が原告の所有であったとしても、被告は、右売買により、本件物件を善意取得したものである。

(認否)

否認する。

(再抗弁)

被告は、訴外会社が本件物件の代金を完済しておらず、従って本件物件の所有者でないことを知っていたものであり仮に被告が本件物件を訴外会社が所有していると信じてこれを買受けたのだとしても、本件物件のような産業機械は、所有権留保約款付で割賦販売されるのがいわば業界の常識であるから、中古機械を買受けるに際しては、契約書や受取証の呈示を求めて所有権取得の事実を確めるべきであるのに、被告はこれを怠ったのであるから、被告がそう信じたことには過失がある。

(認否)

否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  《証拠省略》によれば、原告は、昭和四八年一二月一八日訴外会社に対し、本件物件を代金六、三七七、〇〇〇円、右代金は原告主張のとおり割賦払いとし、右代金完済まで、その所有権を原告に留保する約定で売渡したが、訴外会社は、昭和五〇年八月一〇日以降に支払うべき割賦金を支払わなかったことが認められ、右認定に反する証拠はなく、被告が本件物件を占有していることについては、当事者間に争いがない。

二  よって、被告主張の即時取得の成否について判断する。

1  《証拠省略》によれば、

(一)  被告は、メッキ業を営んでいる者であるが、創価学会の会員で、訴外会社の代表者であった長谷川和也(以下、長谷川という。)が宗教上の指導者であったことから長谷川と知合い、長谷川にたのまれて、訴外会社に資金を融通するようになっていたこと、

(二)  被告の訴外会社に対する融資額は、昭和四九年一〇月当時金一〇、〇〇〇、〇〇〇円を超えていたが、同月三日被告は訴外会社に対し、更に金一〇、〇〇〇、〇〇〇円を貸付けることになったので、以上合計金二〇、〇〇〇、〇〇〇円の譲渡担保として、本件物件を含む訴外会社所有の機械一八台を譲受けることとなり、その旨の売渡書及び領収証の交付をうけて右金一〇、〇〇〇、〇〇〇円を訴外会社に貸付けたが、右各機械は、訴外会社が昭和五〇年八月一〇日倒産するまで、訴外会社がこれを使用していたこと、

が認められる。《証拠判断省略》

2  原告は、被告が本件物件等を買受けた当時、被告は本件機械が訴外会社の所有でないことを知っていたと主張するが、右主張事実を認めるに足る証拠はなく、却って、被告本人尋問の結果によれば、被告は、右契約を締結するに際し、本件物件を含む目的物件は、金五〇、〇〇〇、〇〇〇円相当の価値を有するものであって、いずれも訴外会社の所有するものであるとの長谷川の説明を信じて、その譲渡をうけたが、その所有権取得の点につき、本件物件の売買契約書を確める等の調査は一切しておらないことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

3  しかしながら、訴外会社が被告より多額の融資をうけていたことは、先に認定したとおりであり、しかも《証拠省略》によれば、本件物件のように価格の高い設備機械は、所有権留保約款付で、代金は割賦払いの約定で売買されるのが通常であることが認められ、そのことは、メッキ業を営む被告も当然知っておくべきことというべきであるから、被告が本件機械を取得するに際し、訴外会社より本件機械の売買契約書や代金の領取証の提出を求めてその所有権の帰属についての調査をすることなく、本件物件が訴外会社の所有と信じたことには過失があるといわなければならない。《証拠判断省略》

よって被告の即時取得の主張は理由がない。

三  以上によれば、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 野崎幸雄)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例